ヱホバ与え ヱホバ取り給ふ
ヱホバという言葉は、明治の文語訳の聖書で神様のお名前のヤハウェの訳として用いられました。ヱホバというお名前は年配の方だったら、キリスト教の創造者なる唯一の神としての厳かなるお名前であると知っています。日本の神々の「神」とは違う、唯一の神のお名前であると知っています。 「ヱホバ与えヱホバ取り給ふ」という言葉は旧約聖書のヨブ記1:21にある言葉です。サタンがヨブの繁栄を妬んでヱホバの神にヨブを試みることを提案した時、神様はどういう訳でしょう、サタンがヨブの子らの財産や家を襲って郎党たちを殺すことを許します。 この時、ヨブは一族の災害を神様からのものと認め、「ヱホバ与えヱホバ取り給ふ。ヱホバの御名は讃むべきかな」と言って罪を犯さず、神に向かって愚かなことを言わなかったと聖書は語るのです。 ところがサタンは更にヨブを苦しめるため、ヨブの体に試練を与えますが、彼は「我々は神より幸いを受けるのだから災禍を受けるべきである」と一言の罪をも犯さなかった、と聖書は語るのです。 ちょっと理解しにくい聖書の言葉ですが、私の説明を加えますと、人に与えられる災害は神の許しのもとにサタンから来る。悪人に災害が与えられるのは罰として理解できるが、ヨブはその時代の最高の義人でした。義人が神より災害を受けるとは何か。 ヨブの場合、それは彼のための訓練でした。彼が従順にこの艱難を受ける時、神様は以前に倍する繁栄をあたえ、子孫を増し加えるのです。「ヱホバ与えヱホバ取り給ふ」。今回の尼崎脱線事故は人智では正に理不尽な災害です。ご遺族の方々に神様のお慰めを、犠牲者の方々の為に御冥福を祈りつつ。《く》 繁栄の喪失と回復 ―1988年1月13日主日礼拝説教― ヨブ記というのは、なんともむつかしい書です。またヘンテコな書です。私はなんべん読んでも「わからんなあ」とつぶやきます。 英国の文豪カーライルは、「ヨブ記は世界最古にして最大の文学である」とか言ったそうです。あの文豪カーライルは本当にヨブ記を読んだのだろうかと、いぶかしく思うことがあります。あるいは英語では読みやすいのかもしれませんが、とにかく邦訳聖書ですとヨブ記は読むだけでも大変です。意味がよく分らなくなります。 こんなことを書くのは牧師として恥でしょうか。たしかに恥だと思いますが、これはホントウの告白です。私にはヨブ記は大変に難解の書です。 いわゆるヨブ記の一般評価というものがあって、おおかたの参考書が(高名な先生がたの本も含まれるので失礼千万になりますが)ヨブ記を文学的にも神学的にも一級品のごとくほめていますが、本当にそうなのでしょうか。 ともあれ、ヨブ記はヤコブ5:11で言うような単なる「ヨブの忍耐称賛記」でないことは事実です。そして、もう少し読みを深めて「3人の教条主義的友人たちとヨブとの冗舌的対話、それに対する圧倒的な神様の応答の前にひれ伏すヨブの悔改めの物語り」とするとしても、それだけでは何か足らないように思えてならないのです。 私は昨年の11月頃よりヨブ記を読み始めて、なんだかコツンと突きあたるものを感じました。その時から私は、この1988年になったら、しばらくヨブ記に取り組もうと思い定めていました。そんなわけで、今年になってから1日1回はヨブ記全篇を読み通すようにしているのです。(余分なことですが、聖書は出来ることなら部分読みをせず、1日に一書は全部読みとおすことです)。 * ヨブ記の主張は「善人は最後には祝福を受けるものだ」ということです。その逆を言えば、ちょっと叱られそうですが、「善人が苦難を受けるのは神様の一時の気まぐれによる」のだということになります。つまり、新改訳聖書ヨブ2:3によると神様がヨブの受難を一時目こぼししたのは「サタンのそそのかしによる」のだと、はっきり書いてありますもの。神様がサタンのそそのかしに乗るなんてヘンです、これは新改訳聖書の訳がヘンなのでしょうか。 神様の御前会議にサタンがのこのこ出て来るのも不思議です。こいつは全世界をあちらこちら行き巡るのが商売のようですね。多分天使たちのなかでも他の仲間のアラを探すのが好きな性分で、それが昂じて悪魔になったのに違いありません。みなさん、あちこち行き巡って人のうわさに日を過ごすのは品性上危険です(第二テサロニケ3:11、第一テモテ5:13)。 * ヨブ記で一番誤解されている言葉は、次の言葉です。 「主が与え、主が取られたのだ。 主の御名はほむべきかな」(ヨブ1:21b) ヨブは、神様が自分の財産や子供を奪ったのだと言います。彼は天上での神様とサタンとのやりとりを知らないのだから無理もありませんが、天下の義人ヨブでありませんか、神様の愛と善意を信じるのなら、この逆境は神が与えたものなどとは言ってもならぬことです。逆境の時には慎んで考え深くあるべきです(伝道7:14参照)。 すべて善きことを与えたもうのは神様ですが、悪しき事を与えるのは悪魔のはずです。この明白の理を一時の災難でヨブは逆上して忘れてしまっています。 この点、創世記のヨセフは大したものです。いくら兄たちや、悪情けの主人の妻に災難を浴びせかけられても、自分は神様に愛されて幸運な者であると自覚していましたから。 「善き者に善き報いがあり、悪しき者に悪しき報いがある」というのは聖書の主流の教えです(申命記30以下)。 * 善人が苦難に会うのは特別な場合です。 サタンの攻撃(第二コリント12:7b)か、 神様よりの一時の試錬(ヘブル11:11か、 神様による使命(コロサイ1:24)の3つであります。 神様はサタンの言い分を利用して、しばしの訓練をヨブに与えたのでしょうか。神様はヨブがこうも心が崩れて神を呪い友人の忠告にも耳を貸さない男であるとは予想外であったでしょう。 しかしヨブの善い点は、とにかく最初、神様を賛美したことです。次に最後の神様の圧倒的無茶苦茶な神の力、権威の示威に平身低頭したことです。 このヨブの最後のへりくだりと悔改めが、彼の愚かなそれまでの発言のすべてが取り消され彼を正しいとする神の義認を招いたのです。 友人たちの言葉は旧約聖書の主流として決して誤りではありません。しかしエリフを除いて神様は彼らを不正と呼びます。これは多くの人にとって謎です。 さて、その友人たちの為にヨブがとりなしの祈りをした時、ヨブの繁栄のすべてが回復したそうです。このハッピーエンドこそ、この書の大主題なのだと私は思うのです。(1988.1.17.週報より転載) 〔あとがき〕 昨年は私にとり初著「こうすれば信仰がわかる」を出版できて望外の喜びでした。なんと言っても古林三樹也先生のご尽力には感謝の言葉がありません。またこの出版をご慫慂くださった永井明先生のお励ましを忘れる事は出来ません。特に本書の推薦文で永井先生が10数年まえの私の週報掲載の「ヨブ記講解」をお褒め頂いている所があります。「はて、どんな文章だったかなあ」と戸惑っていましたが、その拙文がホンの3日前、古いフロッピの中に見つかりました。「おやおや、こんな所にあったかい」と懐しみました。ちょうど尼崎脱線事故があり、関連して巻頭第1頁に「ヨブ記」を用いましたから、「そうだ、続く頁にこの第一回説教を流用しよう」と、ずるい考えをおこし、ワープロに入れますと、ピシャリ枠内にはまり込みましたから、嬉しいのなんの、それが今回の「日岡だより」です、勘弁してお読み下さい。「ヨブ記講解」全文をいつか、小冊子にしたいと思います。《く》
by hioka-wahaha
| 2005-05-01 21:00
| 日岡だより
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