ヨセフの系図、ヨセフの正義
一、新約聖書の最初の頁 新約聖書の最初の頁はカタカナばかりがならんでいる。マタイによる福音書第1章です。 むかし、救世軍の山室軍平先生がはじめてキリスト教にふれて感激した時のことだ。なんとかこの尊い教えをみんなに知らせたい。トラクトなどという気のきいたものを先生はまだ知らない。先生は当時、印刷屋の活字拾いをしていた少年工であった。 新約聖書を買ってきた。先生は、それを1枚1枚やぶって、道行く人に配ったそうである。このすばらしい聖書のなかの、たった1枚、つまり2ページだが、これだけでも人の心を変える力があるに相違ないと、少年山室軍平は考えたのである。 もらった人のなかでは、この最初の1頁のカタカナばかりのところを読んで目を白黒させたろうと、先生の伝記には必ず出てくる話である。 さて、この系図。もちろんイエス様の系図である。読んでみると、ひっかかるところが2つある。 第一は、このなかに出てくる女性の名である。4人いて、一人はタマルという。くわしくは聖書を読んでほしいのだが、義父のユダに街娼のまねをして近づき子どもを産んだ人である。 次はラハブ、異邦人の遊女である。この女もイエス様の系図の一人だ。更にルツ。この名は内村鑑三先生が自分の愛娘の名前にしたくらいだから、悪い名ではない。しかし、異邦人なのである。旧約聖書の律法では「異邦人の女をめとってはならない」ときびしくきめられているのにかかわらずである。 4人目の女はダビデ王の妻になったバテシバという女性だが、この人はもともと将軍ウリヤの妻であった。このバテシバをダビデは一目みてムラムラと悪心をおこし、王宮につれこんで関係をむすぶ。そしてこの罪をおおいかくすために、その夫のウリヤを巧みに戦死させてしまう。つまり姦淫と殺人の二重犯罪である。もちろん、こういうことはただごとではすまない。ダビデは預言者ナタンにきびしく糾弾され、神様の裁きを受ける。 以上、簡単にのべたが、こういういまわしい血がイエス様の系図にまじっているということは何を意味するか? 第二の問題点は、この「いまわしい系図」が、実はヨセフの系図であって、マリヤの系図ではない。イエス様は聖霊によってマリヤの胎に宿ったのだから、ヨセフの系図はイエス様にはなんの関係もない。文章の理屈としてはヘンテコである。これは又、何を意味するのか。 * イエス様は、その生涯の最後において、十字架にかかられ、人類の罪を背負われた。ところで、インドの聖者サンダー・シングは「イエス様はその誕生からして十字架なのだ。イエス様がこの地上に生まれなさるということ、すでにそれが十字架だ」と言ったことがある。 まさしく、この系図は以上のサンダー・シングの言葉を裏打ちするのである。ヨセフの系図にはユダ族のなかの特にいまわしい血がまじっていた。イエス様はそのような血筋を負われるのである。 イエス様は「人々の考えによれば、ヨセフの子であった」(ルカ3:23)と聖書に記されている。素っ気ない書き方であるが、実は重要な意味を持っている。イエス様の誕生は、人類の罪の系図を身代りに背負いたもう、そのご生涯をすでに示しているのである。《く》(1992年12月8日の夜の祈祷会にて) 二、ヨセフの正義とはなにか マタイによる福音書第一章の後半を読んでみよう。 ここはルカによる福音書を読むともっとくわしいが、要するにヨセフの婚約者マリヤが聖霊によってイエス様をみごもったという、いわゆる「受胎告知」の場面であるが、じっさいマリヤは面喰らったにちがいない。 私たちはその後の成り行きを知っているので、あまり驚かないけれど、マリヤにとっては大変な事である。もし本当に男の子をみごもったとして、その子が聖霊によってみごもった神の子であるなどと、だれが保証してくれるであろうか。ヨセフがこの事態を理解してくれるであろうか。乙女マリヤにとって身ぶるいするような難問である。 ところで、ヨセフのほうだが、彼はどの時点でマリヤの受胎に気づいたのだろうか。聖書をみると、その点ははっきりしないが、ともかくマリヤの前では何くわぬ顔をしながら、実はそのことに早くより気がついていて苦慮していたのではないか、というように見える。聖書はこうしるしている。 「ヨセフは正しい人であったので、彼女のことが公けになることを好まず、ひそかに離縁しようと決心した」(マタイ1:19)。 「公けになる」という言葉を新改訳では「さらし者にする」という風に訳しているが、どちらにしてもここの所がどうも分からない。つまり、ヨセフがマリヤを離縁すればこそ、彼女は「さらし者」になるのであって、だまって結婚してやれば、周りの者たちは誰ひとり、マリヤが生んだ子をヨセフの子であることを疑うものはいまい。 しかし私はこう解釈する。ヨセフはこのまま婚約状態にしておくと、正直者の彼は、自分が告発者になってマリヤを裁きの座におくらねばならないことになる。それはイヤだ。今、破談にしておけば、マリヤの妊娠はローマの兵隊か、だれかに犯されたというように世間からはみなされよう。(実際、ヨセフはそのように思ったかもしれない)。そうすれば、マリヤは恥を負うにしても、律法違反ではないから、石打ちの刑にあうことはない。 そこで、「ヨセフは正しい人であった」というが、その正しさではマリヤを救うことは出来ない。ヨセフがマリヤを花嫁として受け入れないかぎり、いくら考えても、マリヤを救う道はない。 かと言って、ヨセフがいかにマリヤを愛しているといっても、自分の子でない子をみごもっている彼女を受け入れることはできない。それはヨセフの正義感がゆるさないし、彼の潔癖感がゆるさない。ヨセフの持っている正義ではマリヤを救うことができないのだ。この地上の正義の限界である。 * ここで、マリヤを愛するヨセフは思い惑わざるを得なかった。そのギリギリの所で、天使は夢のなかにヨセフに現われたのである。 神様が人間の世界に干渉なさる時、しばしば当の人間たちにとっては災難であることが多い。この時、マリヤもヨセフもたいへんな問題に巻きこまれたわけだ。 しかし、このような時、天使の声を聞き、天使の姿を見ることができる人は幸いである。「聞く耳と、見る目とは神が作られる」(箴言20:12)と聖書にあるが、一時は驚愕もし惑いもしたけれど、マリヤもヨセフも、天使の言葉を聞き、その夢を見て、絶対の平安を得たのであった。 そして「イエス」という御子の名前すら、頂いた。神様がその独り子に与える「御名」であった。使徒行伝4:12でペテロが言うとおり、この御名のほかに私たちを救い得る名は天下のだれにも与えられていないのである。《く》(1992年12月10日の朝の祈祷会にて) 〔あとがき〕 東京に行く日が迫って、この「日岡だより」を書く時間が無くなり、やむなく古い原稿を捜しだして来て、再掲載する仕儀になりました。お許し乞う。このヨセフ苦慮の物語、彼の心理状態と信仰にまで立ち入って考えると、ずいぶん込み入って来ますが、少々、小説じみてきますね。▼来週はクリスマス礼拝です。万難を拝してご出席ください。もっとも、普段の礼拝でも、きちんと忠実にご出席なさることをお勧めします。礼拝は神様に対する義務であります。私の父などは隣家が葬儀でも失礼して教会に行きました。▼もうすぐ、幸いなクリスマスでありますが、この日にバプテスマを受ける人が無くて残念です。来年はどうか新しい求道者の方々がどんどん招かれ、バプテスマを受ける方々も多く増えるように祈っています。皆さんもお友だちなどを礼拝にお誘いください。▼本日、私は東京・秋川集会のクリスマス礼拝と、2、3の方々を問安する予定です。《く》
by hioka-wahaha
| 2007-12-18 15:10
| 日岡だより
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