自分を愛するように隣人を愛せよ 精神分析学の創始者フロイトの弟子であり、学問の友でもあったと言えるA・アドラーは、心理学を実用的に研究し、それを成功せしめた人としては、先駆的な恩人です。彼に言わせれば、多くの感情障害の患者たちの問題は、その自己中心主義にあるのでした。彼らに「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」という古くからの聖書の教えを与えると、そのほとんどがなおってしまうのでした。 ある医師が憂鬱症の患者を診察していましたが、それが終るとこう言いました。 「一日だけ実験してもらいたいことがあるのですがね。明朝、目がさめたら、一日中できるだけ自分のことは考えないようにして下さい。そしてあなたの奥さんや子供たちを大いに幸せにしてあげようと、そのことを口にし、又それを実行しながら一日を始めてみて下さい。会社へ行ったら、同僚や部下や上司の人々の役に立つことを実行してみて下さい。これを一日やってみて、あなたにどんな変化があらわれるかをためして下さい。そしてその結果を来週私に教えてほしいのです」 その翌日の夕刻、その患者から電話がかかってきました。 「先生、来週までなど、とても待っておれません、今日ほど幸福な日を送ったことはありません。こんなにすっきりとした、生き生きとしたことはありません。もう私は大丈夫です。どうすればよいか、よく分りました」 与えよ、さらば与えられん、と聖書は教えます。人を愛する者は、自分も運命に愛しかえされるのです。 だいぶ前、朝日新聞の投書欄に出ていた話です。ある奥さんの投書で、その奥さんのご主人がアル中だったそうです。題して「私は負けた」 「また夫は外で酒をのんで帰って来た。そして更に酒を出せという。私がいやがると、遂に自分でしょうちゅう瓶を探し出してきて、それをのみ始めた。私はがまんしきれずに泣いて、夫に訴えはじめた。その時、小学校五年生の娘がとび出してきて、夫の体にかじりついた。 『父ちゃん、酒をやめてや。父ちゃん、酒のんだらアホになるで。こら、酒出ていけ。父ちゃんが悪いんやない。酒が悪いんや。酒、出て行け。こら父ちゃんから、出て行け』 と、泣きながら夫の体をびちゃびちゃたたくのです。夫は胸をつかれ、青ざめてコップを手にしたまま、それっきり酒をやめてしまいました。 思えば、酒をやめさせようとして流す涙は、私の涙も小五の娘の涙も同じです。しかし、私は心の底で『このろくでなし。もう別れてしまいたい。あいそがつきた』と、うらみと怒りの涙です。しかし、娘の涙はひたすら父ちゃんを愛する子供の愛の涙です。私はこの娘の愛に負けたと思いました。」 このような愛は、いかなるカウンセラーや精神病医にもまさる絶妙な「治療」をしています。愛は人を生かします。 旧約聖書の創世記に出てくるヤコブという男は、利己心のかたまりのような人物です。彼は兄エサウの弱みにつけこんで長男の権利を奪い取り、目のわるい父イサクをだまして兄に与えるべき祝福を横取りしてしまいます。その結果、ヤコブは毒へびとさそりのすむ荒野へと孤独の旅(体のいい追放です)に出ることになってしまうのです。 この苦難の旅は、ヤコブの心を反省させ、謙虚にもさせたのでありますまいか。一夜、神様は荒野の只中で仮寝するヤコブの夢枕に立って、彼の生涯を祝福し元気づけるのでありました。神の愛はヤコブにそそがれました。愛される価値なき者と自覚しているだけに、彼の感激はいかばかりでしたでしょう。彼の士気はいやが上にもあがり、勇気百倍して荒野をわたり、母の兄ラバンの地に辿りつくのであります。そこで美しい従妹ラケルに出会い、彼女のために結納がわりの十四年の労働をただ数日のように思われたという程、愛しとおしたのであります。 神様の愛に感じてより、ヤコブは人を愛することを知りました。 「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」と聖書は教えます。あなたも行って、そのようにしましょう。もし愛し得ないような人に会ったら、あなたの為に、神のひとり子イエス・キリストは十字架にかかられたことを思いおこして下さい。 (一九七九・一〇・一四日曜説教「自分を愛するように隣人を愛せよ」を骨子にして) (1979.10.21週報「キリストの福音」より)
by hioka-wahaha
| 2017-01-06 11:41
| 週報「キリストの福音」
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