牢獄の賛美 「常(つね)に喜べ、絶えず祈れ、凡(すべ)てのことに感謝せよ」 これは新約聖書テサロニケ人への第一の手紙五・16~18にあるお言葉です。 ある時、使徒パウロが、ピリピという町で悪人にいつわりの訴えをされて、無実の罪で牢屋に入ったことがあります。シラスという弟子も一緒でした。ムチで打たれ、足かせをはめられ、石の牢にくさりでつながれ、その牢は一番奥の(多分地下牢)最もひどい所でありました。 パウロとシラスは、その牢の中で泣いたりわめいたり、ため息をついたりなどしませんでした。ムチ打ちの刑は痛いものです。当時のローマのムチには肉をえぐり取るような金具さえついていましたから。傷も相当ひどかった筈です。その傷から来る発熱で体中がほてっていたでしょう。 そういう二人でしたが、イエス様のために受ける迫害のゆえに、二人にとってそれは喜びであり、感謝でありました。自然、彼ら二人の唇には、賛美の歌が溢れ出ました。それは決して、やせがまんの、これ見てくれ、というような引きつった声ではありません。本当に喜びと感謝にみちた、しかも神秘な霊的な声でしたから、獄中の囚人たちがみんな静まりかえって聞いていたのです。 その時、突然地震がおこりました。その監獄の土台はゆれうごき、戸は全部ひらき、みんなのくさりは解けてしまいました。牢番の獄吏はびっくりしてやってくると、このありさま、もうてっきり囚人達は逃げ出したものと思いこみ、責任を感じて剣をぬいて自殺しかけました。パウロは内から叫びました。 「早まってはいけない。みんな逃げずにここにいるよ」 獄吏はかけ込んでみました。なんと囚人達はみんなおとなしい羊のようにパウロとシラスのそばに逃げもせずにすわっているではありませんか。 「これは神の人だ」 思わず二人の前にひれ伏しました。早速二人を外に連れ出し、傷を洗い、今度はその水で獄吏は家族一同と共にバプテスマをうけたのでありました。 昭和十九年の秋、私は福岡刑務所(この前までTVでやっていたマー姉ちゃん一家の住んでいた百道海岸のすぐそばにありました)の北一舎六二房にいました。私の囚人番号は九〇二番、厳正独居という奴で、絶対他の囚人と話を許されません。一日二回、看守に返事をするだけ、あとは口をきくこともありません。そのような日々の一日、十一月二十三日でしたが、その日の夕刻、神様の言葉が私の心に下り、私は一瞬にして私の国籍が神の国にある事が分りました。 「愁い多き獄にしあれど主によりて生かさるる身の幸に我が酔う」 この時、思わず口ずさんだ短歌です。その時から、私の心にこみ上げてきて、とまる事のない感謝と賛美がありました。看守も同囚の雑役も「あんたのような人は見た事がない」とおどろいた程、独りを慎しみ、且つ歓喜に溢れている囚人生活であったわけです。 私は、その時このパウロやシラスの信仰が少し分ったような気がしました。私は戦争中に刑期を終えて白眼視の世間の中に出てきたのですけれども、その中でも一向悪びれもせず、感謝の歌声はたえなかったように思います。 今でも不思議に思いますが、青年という青年が戦地にひっぱられている時代に、二十三才の「非国民」の青年が召集も受けずに終戦まで市民生活をしたなど夢のようではありませんか。運動不足、栄養不足の刑務所上がりの身で、当時の軍隊にまわされて、私の刑歴を見られたら、いっぺんに叩(たた)きのめされて死んでしまった事でしょう。 信仰は感謝をうみ、賛美をわかせます。賛美の歌のある処、運命の転回があり、悪運よりの解放がおこります。そして、ますます人生の自信をわかせるものです。 (一九七九・一〇・四、佐藤家聖書集会にて) (1979.10.7週報「キリストの福音」より)
by hioka-wahaha
| 2016-12-10 16:10
| 日岡だより
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