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No.619 自分を見くびるな(2) 2013.11.24

旅する手紙 第11号(1961.3.2)
 
自分を見くびるな(2)起筆 61年2月28日

 (前回からのつづき)
 四、五年前この町(私の住んでいる大分市)でも暴力団がはびこって、遂にある学生が何の関係も意味もなく街頭でメッタうちにされてグサリとやられるような事件がおこった。正確なことは忘れたが大体そんな事だった。そういう記事が出ると、マタゾロ私は心配する。もし私の目の前でそういう事件がおこったら私はどうしよう。暴力はとめたしグレン隊はこわし、私は良心と恐怖心の間に進退きわまるだろうと気にやむのである。暴力事件の新聞記事を見ながら、私は神経衰弱をおこしそうなのであった。
 ところが私は、一方ではこんな経験がある。(誰でも似たりよったり同じような経験を持っていようが)。終戦直後、私が駅前で浮浪児たちとあそんでいると、MPの兵隊が駅前の飲食店に入っていった。間もなくキャーッと女の悲鳴がする。あとで聞くとそのMPも悪気(?)ではなかったらしい。前々女の世話を頼むと交番の巡査に話してあった、その巡査がそこの飲食店に何かの用事でノレンをくぐる、ちょうど近くにいたMPに目があい、巡査は何ということもなく日本人らしい謎の微笑をする、そのすぐあとを縁もゆかりもない女性が店に入る。そこでMPは「我がインスタント・ワイフなり!」というわけで威勢よく入りこんで来たわけである。立ちすくんだのは気の毒なポリ公、当の女性はもちろん気の毒などころの話ではない。私はトタンにカーッとしてその店にとび込んで大男のMPのうしろから、下駄でポカポカと叩いた。何やらわめいてふりむくMPと二、三わたり合って、私は勝手知ったる裏口から迷路に逃げる。女も逃げる。うしろでピストルの音がする。あとで思い出してゾーッとした。
 次の日、警察に行って、昨日の駅前事件のことをきくと、
「フテイの日本人を追って、ピストルを撃った、たしかにタマが当たっているから傷をしている筈である。という事ですよ。」
「じゃぼくじゃないですね。ぼくはタマ傷を負っていない」
「あゝ大丈夫大丈夫」
 でな事だった。私は気は弱いし、体はキビンでなく喧嘩は不得手であるが、一瞬妙な時にはとんでもなく向う見ずになるという一例である。
 二、三年前集会している最中に私に反感を持った男が出刃包丁を持って乱入してくる事件があったが、私は別にあわてもしなかったように思う。私の妻もその男に日本刀をつきつけられておどされたことがあるのだが、別に恐れた様子はなく中々アッパレだったが、あとがいけない、あとで考えると恐くて身がすくむという。(つづく)
 
(「旅する手紙」・・・1961年2月から3月にかけて、回覧誌のような形で書いたもの。肉筆の複写版。原文縦書き)
by hioka-wahaha | 2013-11-30 23:13 | 1961旅する手紙
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