「神の息よ吹け」1974年4月号
-「心に満つるより」改題・通巻第7号- 事毎に祈れ 七、平安とは充実のことである 時々刻々、事毎に祈って、求めた事に前章のようなカラシ種信仰を以て対する時、「人知でははかり知ることのできない神の平安」が訪れます。 平安とは、風呂に入ってハナ歌をうたっているような、一杯きこしめして太平楽を吹いているような、そんなものではない。そういう平安はたまにはよろしいが、年中つづけておられるものではありません。本当の平安は充実です。重心がしっかりしている事です。時々刻々祈っている魂にはそういう充実感があります。一瞬一瞬、新しい生命にあがなわれて生き返っているかの如き生命には、そういう溢れみなぎる充実しきった生命感があります。 今、この信仰を最も端的に表しているのは、私の母かもしれません。私の母は若い時はその弟妹達の為、嫁しては病身の夫の為に、老いては非戦論、社会事業、伝道の為に家と生活をかえりみぬ独り息子(つまり私)の為に人生を費消しつくしました。こう書くと格好よいけれど、人の為につくすはよいけれど実にグチが多く悲観的、どこか律法主義的頑固な人で、私の求道生活は、この実の母がうとましくてたまらぬという罪責感から生じたと言ってもいいくらいです。 この母が先月二十七日より、ころりと変りました。もう八十三才の衰弱した体で万年床にねたりおきたりですが、そういう孤独な生活の中で、「いつもイエス様と一緒だから淋しくない」といい、「毎日、聖書の言葉が少しづつ分ってうれしい」という。事毎に、いつも祈る老母を見ると、私も手を合わせて拝みたいくらいです。よくもまァあの自己中心に悲観的言葉だらけの人生であった母が、こうもかわったものです。 いくら言ってきかせても絶対あとにひかず自分の意見を主張していた母が(大分ぼけてきましてね、夕食を朝と勘ちがいする、一度入った風呂にまだ入ってないという。朝食を食べて又眠って九時頃に起きてくると、また朝食を食べるという。以前はこういう時、少し家人のいう事が本当かいなと思っても、あくまで意地を張って、老人の特権でしゃにむに自己主張をしていたように思う。 今はちがう。そうかい、私も大分物忘れがひどくなったからそうかもしれんね。でも、食べたいことは食べたいから、ご飯をお願いします。といった調子である。)本当に素直になってしまって、勿体ないような感じさえすることがある。おかげで、私共も一緒になって素直に祈る。 「神様、バアチャンの腰が痛いそうです。どうぞなおして下さい。」 「神様、バアチャンの手にイボがでました。どうぞイボを取って下さい、アーメン。」 と事毎に祈ります。すると又不思議にいやされましてね、母は私に「ねェ、なおったよ」という。私もうれしいから、立ったまま母をかき抱いて「神様、バアチャンのイボを取って下さいましてありがとうございます。アーメン。」と祈るのである。こういう家庭が、幸福でない筈がありませんね。本当に毎日充実しきっているのですよ。今もこの原稿を書き終わろうとして、さき程風呂から上がったらしい母がもう眠っているかどうか見に行きました。そうしたら、既に眠っていた母が、ポカリ目をあけて 「安らかに眠れてうれしいよ。イエス様に感謝いっぱいですよ。」 という。私は泣けてしまって、母の手を握って、一緒に感謝の祈祷を捧げた事です。 かく我らを愛し励まし進ましめ給う、十字架と復活の主を讃美しつつペンをおく。(一九七四・三・二八) (1974年4月号「神の息よ吹け」より)
by hioka-wahaha
| 2013-03-26 22:14
| 1974「神の息よ吹け」
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