意志を意志せよ
青年時代、私が常時ポケットにいれて持ち歩いた本に「内村鑑三随筆集」がある。岩波文庫の一冊で、畔上賢造先生の編集である。 内村先生らしいズバリ突っ込む、しかも武骨な言葉が魅力的である。私はこの本を愛した。 表紙は剥げてしまったので、桜の花の咲いている雑誌か、何かの口絵であろう、その写真の用紙を表紙代わりに貼り付けて、今も愛読している。 最近、私の胸を打ったのは、次の言葉であった。 「富も財産なり、知識も財産なり、健康も財産なり、才能も財産なり、而して意志も亦財産たるなり、而して意志の他の財産に優るの所以は、何人も之を有すると、之を己が欲する侭に使用し得るに存す。」 昔の文章で、文字がやや難しいが、判読してください。 ここに内村先生が挙げているのは、人間にとり、意志が大切だということである。 そう言えば、かつて手島先生に師事していた時、手島先生が講義中、天を見上げるようにして、「うん、うん」と自分でうなずきながら、語った言葉があった。 「そうだ、意志だよ。我々人間の中心、我々自身、我々の魂の中心は意志だよ。」 と今更に悟ったように言われた。その言葉を私は忘れられない。 意志という言葉は名詞だが、これは愛という言葉と同様で、一般に名詞で語るが、その本来は動詞である。意志を目的に方向づけ、意志を貫こうとする魂の働きである。 「私は意志する」と直訳的に表現すると、ぴったりする聖書の個所はマタイ第8章2節、3節である。 イエスが山をお降りになると、おびただしい群衆がついてきた。すると、そのとき、ひとりのらい病人がイエスのところにきて、ひれ伏して言った、 「主よ、みこころでしたら、きよめていただけるのですが」。イエスは手を伸ばして、彼にさわり、「そうしてあげよう。きよくなれ」と言われた。すると、らい病は直ちにきよめられた。 このイエス様の当時、民衆の間で、らい病は日本風に言えば「天刑病」と思われていた。霊的に汚れた病気であって、人は近づいてはいけない。そういう人が、神秘の人イエス様のような方に近づくだけでも非礼なのである。 そこを押してイエス様の前に出た。だから平伏するのである。イエス様の御前に出るだけでも申し訳ない。なぜ、そうまでしてイエス様の前に出て行くのか。イエス様になさってほしいことがある。そのらい病人の意志が彼を、ここに押し出してきたのである。 * ここで、邦訳聖書の翻訳をチェックしますと、少し問題があります。まず「みこころでしたら」ではなくて、正確には「あなたが意志してくだされば」です。次に「清めて頂けるのですが」ではなくて、このらい病の男は、ちゃんと「私を清めることが出来ます」と信仰の告白をしているのです。これが正確な訳です。(「清めて頂けるのですが」という訳ですが、この「が」をつけ加えると、歯痒いほど気弱な訳文になってしまいます。) だからイエス様のご返事も「そうしてあげよう。きよくなれ」ではなくて、「私が意志するぞ。きよくなれ」とはっきりおっしゃられるのです。 そうすると、らい病は「たちどころに」去ったとあります。「一瞬に」です。こうした感じは、神様の癒しを体験した人はよく分かります。 そして「きよめられた」のです。これは「一掃された」と訳すとよく理解できますね。汚いらい病の症状が一瞬に払い清められるのです。 こうしてイエス様の癒しの力は見事に発揮されます。神の独り子としての当然の力であります。 このお力が発揮される直前のイエス様のお言葉ですが、「意志するぞ」ということです。このお言葉はイエス様の「意志」そのものです。 * 多くの、己れの弱さを意識して困っている方々を救う道は前項に書きました「意志」の活用にあります。 「意志の活用?って、それができれば文句ないのですが、それが出来ないのが、悩みなんですよ。どうしたら、意志が使えるんですか。私の弱い意志は私の力ではどうにもなりません。意志は動いてくれないんですよ」。という人が多いでしょうね。 ここでやってみてほしいことがあります。あなたの「意志」を起こすのです。あなたの意志のもう一つ手前にあなたのより自分のものとして使える「意志」があると、承知してください。 はい、あなたのその中心意志を振るい動かして、あなたの前方の意志を動かすのです。つまり「意志」に意志の力をけしかけて、「もっと意志せよ、もっと意志せよ」と励ますのです。 これを私は「意志で意志に命じる」と言います。自分の中心意志を使って、自分の前線意志を動かすのです。参謀本部が前進基地に命令を送るようなものです。こうして、私の意志本部の命令を、私の第二意志に送ります。つまり、意志に命令して、意志を動かすのです。 多くの人が「私は意志が弱くて」と言って嘆くのは、この「意志を追い使う」、もう一つあなたの内側にある深層意志で表面意志を動かすコツを掴んでいないからです。 * 人の中心は「意志」です。この意志のもう一つ高次の意志を使って、あなたの意志に意志するのです。そうすると、あなたの意志はあなたの思うがままに動きます。 まず、あなたの意志の手綱を握りなさい。そうして、その方向を決めるんです。何に向かって意志を働かせるか。 人か、金か、問題か。心か。宇宙か。霊の世界か。運命か。自分の霊的水準か。罪の救か。友人の魂か。日本の前途か。世界の救か。 いやいや、もっとこの世のことで、私の会社の経営、妻の病気、町並の掃除のこと、近くのお子さんの成績で相談受けている。こうした問題が一杯。そこにあなたの意志を向けなさい。そこに神様の光を当ててみましょう。 あなたの意志を管にして、その管をとおして、神様の光と愛と力を放射します。そのあなたの心の働きを、日本語では「念」と言います。念じるのです。 これが、「祈り」です。口で祈る祈りも、内側で「念」が働いていなければ、空虚な祈りになります。声も激しく、手足も振るって、転げ廻って祈ることもありますが、そこに心の「念」が強く伴うように気をつけましょう。そうでないと、転げ廻って祈ったんだというだけの自己満足に陥る恐れがあります。 一般にプロテスタントの教会の信者さんは口で祈る祈り自由祈祷は得意(?)ですが、祈祷文に沿って祈る習慣のカトリックの方々など、自由祈祷は苦手かもしれません。しかし、カトリックでもはっきりと口祷と念祷と分けていまして、つまり口祷は口に声を出して祈る祈り、念祷は心の中で祈る祈り、そういう風に分けていますが、私の読んだ本では、口祷のときも念祷の心で祈るようにとの注意がありました。 私の子どもの時に、父の残した「日毎の祈り」の本がありました。歴史上のすぐれた聖徒がたの祈りの数々を1年365日に振り分けて編集してある本でした。それを毎朝、母と一緒に読んで、朝の礼拝をしたものです。 一般のプロテスタントの信者、自由に熱心に祈っている習慣はすばらしいのですが、同じような繰り言だけを毎日申し上げるだけで、一歩の進歩もないという欠点が無いとは言えないでしょう。そういう恐れがあるとすれば、なおさら念を込めて、神様に熱意ある祈りを毎日神様に献げたいものだと思います。《く》
by hioka-wahaha
| 2007-08-21 14:00
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