山岳的風土に育つ信仰 戦前、私たちは朝鮮の山には木が植わっていない、みんなはげ山だ、日本内地は至るところ緑の山ですばらしい、朝鮮人は山の木を切ってしまうばかりで、あとの植林をせぬからだめだ、と朝鮮人を軽蔑する教育をうけたものです。 然るにこのたび、韓国に行ってみましたら山々は至る処、緑でおおわれていました。「山を緑化しよう」という大看板を一度見ましたが、多分政府の強力な政策なのでしょう、植林運動は韓国全土に成功しているものと見ていいのではないかと思いました。 とはいえ、実は私は韓国の山々を見て、これでは日本のような潤沢な植林はむつかしいのではないかと考えました。何しろ、韓国の山の大半は花崗岩で出来ていて、岩のくぼんだ処や、谷になっている処に背の低い木がやっと生えているという格好です。大統領官邸の裏の広い国道をバスで行く時、その向うに見える、石か骨細工もののように優美に輝いている山を眺めて、これはエルサレムの住民がシオンの山をなつかしむように、韓国の人々の胸裡に忘れられぬ、祖国の象徴だろうなァと思いました。そんなに美しい山ですけれど、表面がすべすべと磨き上げられた骨董品のような山に、客土ひとつもない、そんな処にどうして大木が育つでしょうか。根がはる余地が少しもないのです。 実に韓国は山岳国家であります。比類なき堅固な花崗岩の山々であります。歴史的にみて、多くの外敵に耐え、且つ文化を守ってきたのも、この山岳のおかげでありますし、根気強い気質、原理に忠実な性格、強健な肉体も、この風土から生れてきたと思われます。韓国の堅い山岳は植林事業を容易に受けつけませんが、しかし、すばらしい堅固な国民性を生み育てました。日本のやわらかい風土は、杉をわずか二十年程で育てあげてしまう速成ぶりですが、そのかわり、人間の心をも甘く安っぽく育て上げてしまうようです。そして日本の教会の信仰も、それに似ていないでしょうか。 ソウル市内を歩く時、教会の多いのにおどろかされます。一万人も五千人も収容できるような大会堂から、トタン張りマーケットの二階を借りてやっている開拓教会に至るまで大小さまざまの教会が百メートルおきに十字架を挙げて並んでいます。 韓国では、クリスチャンは十人に一人の割合です。日本では百人に一人です。両国いずれも、プロテスタントの宣教がはじまって約百年、同じような条件下にどうしてこうも違って来たのでしょう。その原因について多くの解明があるでしょうが、私は次の一つをあげたいと思います。韓国では迫害のきびしさに耐えぬいたクリスチャンの種が、今花を開いているのに対して、日本では、迫害的状況下に耐えぬくクリスチャンが、あまりに少なかったという事です。 このたび韓国を訪れた時も、あたかも板門店事件で緊張して、街角に兵隊が立哨し、空はヘリコプターが警戒している。その中で、信者がたは貧しい生活ときびしい生活条件にたえ、真剣に神を求め、祈り、断食しているのでした。安逸に飽食し、平和の中でただれ切って生きている日本を思って、慄然としたことです。 「日本人は幸福ですね」 と、私の民宿した家庭の奥さんが、フトもらしました。それは子供の教育についてのすなおな感想なのでしたが、私はついこう言いたくなりました。 「それはそうかもしれません、―――然し本当の幸福は、この貧しい韓国のほうにありそうですね」 もし、私が韓国語が上手でしたら、この気持をもっと十分に言ってあげたかったのでしたが。 神のいます処、神の求められている処、そこにのみ幸福があります。他の幸福は、すべて幸福そうに見えて実はにせものなのです。 そんな思いを、かみしめ、かみしめ日本に帰った事です。 今度、韓国に行ってみて、どう見ても彼の地は日本人のふるさとであると思いました。人種的にはともかく、文化的には(殊に言語の基本(ベース)において)日本人の源泉の国ではないでしょうか。信仰においても、多くの源泉の水を汲むべき井戸が、かの地にあるように見られました。 (1976.9.5「キリストの福音」より)
by hioka-wahaha
| 2015-04-15 17:56
| 週報「キリストの福音」
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